この1年間のソーシャル化への取り組みでスピード感を取り戻した――鵜之澤伸CESA



 今年からコンピュータエンターテインメント協会(CESA)の会長に就任した鵜之澤伸副社長は、旧バンダイ出身で現在はバンダイナムコゲームス代表取締 役副社長を務めている。基調講演のスタートでは、ネットワークマシン「Pippin@」をはじめとした自身の経験に触れつつ、これまでのゲーム業界の歩み を振り返った。その上で「3年ぐらい前からゲーム業界には『ソーシャルの波』が来ていて、この流れはCESAとしても採り入れなくてはいけない」としつつ も、「『ゲーム業界は右肩下がり、ソーシャルに食われている』とよくいわれますが、大手6社のゲーム売上という点ではそれほど変わっていません。売上とい う数字からでは見えにくいソーシャル化が進んでいるのが現状です」と、ソーシャル化=ゲーム業界の衰退、という見方に釘をさした。そのうえで、大手ゲーム メーカーで進むソーシャル化への取り組みとして、

・ファイアーエンブレム 覚醒(任天堂)
・ガンダムバトルオペレーション(バンダイナムコゲームス)
・ファンタシースターオンライン2(セガ)

という、この1年でサービスを開始した3タイトルのケースを紹介した。

●「ガンダムバトルオペレーション」は約2カ月の売上で開発コスト回収に成功

 「ファイアーエンブレム 覚醒」については、鵜之澤氏が「任天堂の岩田社長から『CESA会長就任祝い』ということでかなり無理してデータを教えてもらった」そうで、そのデータに よると、ニンテンドー3DS全体のネット接続率は75%に及んでおり、「ファイアーエンブレム」でもダウンロード売上が3.8億に達しているという。ま た、鵜之澤氏自身が関わる「ガンダムバトルオペレーション」は、基本無料プレイを採用しつつもすでに7億円の売上を達成し、ほぼ開発費用の回収に成功。そ の売上の75%がプレイ権(出撃エネルギー)の販売だという。「多くの人が無料プレイを楽しんだ上で、さらに追加料金を払ってくれる、というのは驚きでし た。これが新しいモデルなのか、間口を広くすることでお客様も付いてきてくれるんだ、と手応えを感じました」(鵜之澤氏)。さらに、「ファンタシースター オンライン2」については「課金ユーザーにゲームバランスが偏らないよう、アイテムをコスチュームや倉庫などに限定している点、マルチプラットフォームに 対応しているところにセガさんの配慮を感じます」(鵜之澤氏)と紹介している。

 そして、今後の意識改革として鵜之澤氏は「ゲーム機がもはやゲームだけのものではない時代、ゲームから発信できるさまざまなコンテンツに目を向ける必要 性がある」と指摘する。「『クール・ジャパン』などといわれる国内コンテンツの海外展開では、ゲーム業界が一番成功していると思います。すでにカプコンさ んが、映画『バイオハザード』を始め、さまざまな取り組みで成功を収めていますが、今後はグローバルを目指した展開をゲーム業界は考えなくてはならないと 思います」(鵜之澤氏)。

●ソーシャルゲームの企画は若い世代に任せた

 ここで鵜之澤氏の基調講演は終了し、『日経エンタテインメント!』誌の品田秀雄編集委員を交えたトークセッションへと移った。トークは「日本のゲーム業 界は元気がない」という説を巡っての話題が続いたのだが、そこで鵜之澤氏から出たのは、自身の失敗を踏まえた「これからは日本流でやる」という力強い宣言 だった。

「自分の経験からすると、日本のクリエイターが無理して『海外でウケるものを』と開発すると、うまくいきませんでした。海外と日本では売れるゲームは違う ので、『こういうのがウケけるんです』といわれ腑に落ちないまま通した企画もあったのですが、まず失敗しました。一方で、任天堂さんのように海外に媚びを 売っていない作品もヒットしています。僕は、過去海外で失敗した経験から、日本のやり方で行こうと腹をくくりました。日本人ならではのノウハウと国民性は 間違いなく通用すると思います」(鵜之澤氏)。

 さらに、「ソーシャルの波」が訪れた今は「若い人にとってはゲーム業界に入るチャンス」とも語る。

「若い世代の人たちがソーシャルゲームを立ち上げられたのは、若い時代から携帯電話があったからで、キーボードやコントローラでゲームをやってきた僕らの 世代には理解できないです。なので、企画が上がってきたら若い世代に任せるしかありません。開発コストも小さくなり、任せることができる環境にもなってい ます。ゲーム会社というと、成熟して私のようなおじさんばかりが威張っている会社、というイメージがあるかもしれませんが、今は下の世代がおじさんたちを 突き上げるチャンスですし、ぜひそういう若い人にどんどん入ってきて欲しいと思います」(鵜之澤氏)。

 そして、最後は「この1年で私たちの業界は非常なスピードで変わることができたと思います。かつて変化のスピードが早いといわれたゲーム業界でしたが、 ここ数年はアーケードやコンソールの変わるスピードが落ちていました。今やSNSの会社は僕らの3倍のスピードで変化しています。そういう彼らと付き合う ことで、もう一度スピード感を取り戻せたことは大きいです」(鵜之澤氏)とこの1年の手応えを語り、トークセッションは締めくくられた。