まず、女子100メートル背泳ぎ決勝で寺川綾(ミズノ)が58秒83の日本新記録で銅メダルを獲得。日本の競泳女子で史上最年長のメダリストとなった寺川は、「目指していた1番ではないですが、うれしいです。やっと目標だった58秒台がでたので良かったです」と涙をにじませた。
その直後に行われた男子100メートル背泳ぎでは、入江陵介(イトマン東進)が後半で追い上げ、52秒97で3位に入った。
入江は試合後、「綾さんが直前で(メダルを)取られて、背泳ぎは日本が強いんだというところを(自分も)示せた」と胸を張った。
さらに圧巻だったのは女子100メートル平泳ぎ。1分6秒32で銅メダルを獲得したのは鈴木聡美(山梨学院大)だ。50メートルは6位で折り返したが、後半に驚異の追い上げを見せた。鈴木は「メダリストの仲間入りができて本当にうれしい」と喜びを爆発させた。
周囲の誰もが待ち望んだ五輪メダルを、熟練の「タッチ」でつかみとった。女子100メートル背泳ぎで、自身初の五輪メダルとなる銅メダルに輝いた寺川。27歳での五輪メダル獲得は、日本競泳女子史上最年長だ。「この結果は私一人のものではなくて、皆さんのおかげ。ありがとうと伝えたい」と感涙にむせんだ。
昨夏の世界選手権女子50メートル背泳ぎでは、これまた自身初の世界選手権メダルとなる銀メダル獲得したが、狙いは五輪でのメダル。そのために克服すべき課題がタッチだった。フィニッシュ時に指先が触れるタイミングを、いかにストロークと合わせるか。平井伯昌ヘッドコーチは「ラスト勝負でピッチを上げるとタッチが合わない。大きく、速くかけ」と言い続けた。
この日、寺川は「スパートをかける時、ここだという判断も自分でできた」と、残り15メートルでスパート。「最後にタッチする瞬間、『タッチをしっかりやるんだぞ』という平井先生の顔が浮かんだ」という。ストロークのタイミングとタッチは、しっかりと合った。
北京五輪行きを逃した08年の冬、既にトップ選手でありながら「自分を変えたい」と、平井コーチに師事。昨夏の銀メダルを「熟成のメダル」と表現した平井コーチは「あんなに冷静なレース運びができたのは初めて。大人の証というか、寺川綾の完成形かな」。名コーチの口元が緩んだ。
突然の方針転換が、銅メダルに結実した。男子100メートル背泳ぎで銅メダルを獲得した入江は、200メートルが得意種目。今大会でも200メートルに照準を絞ってきたが、レース前夜、道浦健寿コーチと話し合い、あえて200メートルの泳ぎを崩して、前半から積極的に入る「最終調整」を行った。入江は「競馬で言えば、100メートルの選手はみんな逃げ馬だけど、僕は差し馬。最後は絶対差してやるという強い気持ちで臨んだ」という。
「積極的に入った」前半は6番手。だが、前半25秒82は入江にとってハイペースで、ライバルたちからの出遅れを、最小限にとどめた。終盤に持ち味の追い上げをみせ、最後は世界選手権同種目金メダルのカミーユ・ラクール(フランス)とのタッチ勝負に勝ち、表彰台に滑り込んだ。
「100メートルが取れたので、一歩進歩したかな」と入江。若きホープ、エースと呼ばれながらも北京五輪では結果を出せなかった「過去」と、ようやく決別した。
鈴木選手の実家がある福岡県遠賀町では、町中央公民館で午前3時半からパブリックビューイングがあり、親族や町民は快挙に沸いた。
鈴木選手の両親は現地入りしており、公民館には姉でダイビング・インストラクターの鮎美さん(24)、祖母の入江春代さん(79)ら親族のほか、鈴木選手が通った町内の「オールウェイズスイミングクラブ」の同級生ら約70人が集まった。
レースが始まると、鮎美さんらは応援用のうちわを手に大型テレビの中継画面を祈るように見つめエールを送った。「さとみ、落ち着いて」「頑張ってー」--。後半の追い上げで3着に入ると、会場は「やったー」「ばんざーい」と拍手と歓声に包まれた。
鮎美さんも高校まで競泳選手。5歳の時、スイミングクラブに通い出した鮎美さんを見て妹の鈴木選手も水泳を始めた。「聡美から親に連絡がなくても鮎美には必ずあるんです」と母親がうらやむほど仲がいい。鮎美さんは「『あんた、ほんとに肝がすわってるね』と言ってあげたい。体も心も強くなったみたい」と目を潤ませた。
春代さんもハンカチで何度も目頭を押さえながら「感無量です。まさか表彰台に上がれるとは。最後、よく頑張ってくれました」と孫をねぎらった。
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