中国で日系漫画誌デビュー相次ぐ 海賊版が蔓延…排除も狙う
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昨年9月に創刊された角川系の雑誌「天漫」は日本の人気漫画も収録している(写真:産経新聞) |
中国での日本の出版社系漫画雑誌の刊行が相次いでいる。市場規模の大きさに着目しての進出だが、中国は漫画の輸入を厳しく規制しており、これまで日本漫
画は正規にはほとんど流通していなかった。それだけに中国では日本漫画の海賊版が蔓延(まんえん)。日系の漫画雑誌の中国での普及が、海賊版の排除につな
がることも期待されている。(溝上健良)
中国では外国文化の輸入は厳しく規制されており、最近まで、外国映画の上映枠は年間20本に限られていた。漫画も同様に海外作品の翻訳・出版には高い壁があるのが現状だ。
日本の作品(正規版)はほとんど翻訳されておらず、市場ではもっぱら海賊版が横行している。日本の出版関係者によると、「ONE PIECE(ワンピー
ス)」(集英社)や「はじめの一歩」(講談社)といった人気漫画を勝手に1冊に収めた“オールジャパン”の海賊版雑誌まで確認されているという。違法制作
物の流通撲滅などを目的とするコンテンツ海外流通促進機構の担当者は「身近に本物がないことが、海賊版の蔓延を許している」と話す。
◆角川グループ「天漫」
そんな現状を打破しようと、中国進出の先陣を切ったのは角川グループ。外資が直接、中国で出版するのは不可能なため、中国の出版社との合弁会社を設立した上で、昨年9月に月刊漫画誌「天漫」を創刊した。
「機動戦士ガンダムUC」や「新世紀エヴァンゲリオン」など日本の人気漫画に加え、中国人の作家による作品も収録している。
角川グループホールディングスの柿沢史行IR・広報室長は「昨年5月にライトノベルの『涼宮ハルヒ』シリーズ最新刊を日中同時に刊行した際には、海賊版
は確認されなかった。正規版が流通していれば、海賊版は出ないという見方もできる」と話す。同社では日本のコンテンツの普及を目指すことで、海賊版の流通
抑止を目指している。創刊から半年あまりがたった今は「発行部数が爆発的に伸びているという状況ではないが、大都市を中心に全国で順調に巻を積み重ねてい
る」(柿沢さん)という。
◆講談社系は「勁漫画」
そして今年5月、講談社が事業提携した中国の出版社に漫画雑誌制作のノウハウを提供する形で、月刊漫画誌「勁漫画」が創刊された。「中国発の漫画、キャ
ラクターをつくって、いずれは他の中華圏にも広げていきたい」(講談社広報室の吉田健二さん)と、中国人漫画家による作品のみで、多くは新人作家。日本人
編集者が漫画制作の手法を伝授することで、質の高い作品の掲載を目指している。オールカラーで120ページ。4ページ分を1ページに収めており、内容を充
実させた上で定価は8元(約100円)に抑えた。北京を中心に23万部を発行している。
もちろん、雑誌の販売だけで採算ラインに乗せるのは厳しい。両社とも、雑誌に連載した作品を単行本化するほか、アニメ化やキャラクターグッズの販売など多メディア展開を視野に入れている。両社の漫画誌が軌道に乗れば、後に続いて中国進出を目指す出版社も出てきそうだ。
■そう簡単になくならない
中国事情に詳しいジャーナリストの青木直人さんは「中国政府による文化規制は今後も続く。合弁で中国市場に参入するという動きは理解できるが、今後、日
中関係が緊迫した時に『文化侵略だ』との批判が出てくることは十分考えられ、信頼できる出版社などと組んで慎重に話を進める必要がある。海賊版も当局に取
り締まる余力がなく、そう簡単にはなくならないはずだ」と話している。